子どもの成長を“ワザ”で促す――1on1の児童発達支援『とりっくおあとりーと』の進む道

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室内遊具や滑り台、カラフルなボルダリング壁がある保育施設の中で、白いシャツの男性が笑顔で立っている。背後には本棚や時計、動物の壁面装飾がある。
『とりっくおあとりーと府中』施設長の上野勇樹さん
室内遊具や滑り台、カラフルなボルダリング壁がある保育施設の中で、白いシャツの男性が笑顔で立っている。背後には本棚や時計、動物の壁面装飾がある。
『とりっくおあとりーと府中』施設長の上野勇樹さん

 診断の有無に関わらず、日々育児に奮闘する親であれば、我が子の発達について不安がよぎる瞬間があるかもしれません。2024年、府中市八幡町にオープンした「児童発達支援施設『とりっくおあとりーと』」は、そんな親子の不安な心にそっと寄り添い、一人ひとりの個性に合わせた支援の提供を目指している場所です。

 今回は施設長の上野勇樹さんに、ご自身の経験から福祉の道を志した経緯や、子どもたち一人ひとりと真摯に向き合うマンツーマン指導へのこだわり、そして府中というまちへの想いを伺いました。

兄の想いを継いで、福祉の道へ

保育園や幼稚園の室内で、白いシャツの男性が机に座り、ノートパソコンを前に話している様子。背景には木の装飾や動物キャラクターが描かれている壁が見える。
児童福祉の世界へキャリアチェンジを果たす
保育園や幼稚園の室内で、白いシャツの男性が机に座り、ノートパソコンを前に話している様子。背景には木の装飾や動物キャラクターが描かれている壁が見える。
児童福祉の世界へキャリアチェンジを果たす

 もともと勤め人として介護の仕事に従事していた上野さん。彼が児童福祉の世界へ足を踏み入れたのは、生まれつき持病を抱えながらも、他社貢献に意欲を燃やすお兄さんの存在がきっかけだったと言います。

「兄は『自分に何ができるかわからないけど、困っている人に手を差し伸べたい』という想いで会社を立ち上げたらしいんです」と話す上野さん。『らしい』と伝聞形式で上野さんが語る理由は、設立当時、上野さんは会社の存在すら知らなかったからだと言います。

 創業には人並みならぬ想いがありましたが、その反面、事業は順調にはいきませんでした。上野さんのお兄さんは持病の悪化などが重なり、なかなか思うように動けなくなってしまいます。

「そうした兄の苦労を知って、私もまた『兄が生きているうちに、その想いを何か形にしてあげたい』と思うようになっていったんです」

 上野さんは介護の仕事を辞め、お兄さんが立てた会社である株式会社ウェルチャーへ参画。想いは共にしながらも、実質的に事業を回すのは自分ひとりからという、過酷な上野さんの挑戦が始まりました。

府中に貢献したい――困難の末に見つけた理想の場所

児童発達支援施設の遊び場。木製の滑り台とクライミングウォール、ネット付きトランポリンが配置されている。壁には動物キャラクターと木の装飾が施されている。
施設内は広々としたスペースが広がっている
児童発達支援施設の遊び場。木製の滑り台とクライミングウォール、ネット付きトランポリンが配置されている。壁には動物キャラクターと木の装飾が施されている。
施設内は広々としたスペースが広がっている

 八幡町にある「とりっくおあとりーと府中」は、旧甲州街道の路面沿いに位置しています。以前から府中在住だった上野さんにとって、府中は住みやすく、愛着のあるまちでした。だからこそ、新しく施設を始めるのであれば、まずはこのまちの福祉に貢献したいと思ったそうです。

 ある程度の広さがあり、子どもたちがのびのびと遊べるような場所がいい――そう決意したものの、物件探しは想像以上に困難を極めました。市内の物件をすべて探し回っても見つからず、一度は府中という地域を諦めかけたことも。他の地域でも探しましたが、会社としてまだ実績がないことを理由に断られる日々が続きました。

「もうダメかと思っていた矢先に、今の物件が空いたと連絡があったんです。オーナーさんに『どうしてもここで、子どもたちのための施設をやりたいんです』と必死に想いを伝えたら、快く貸していただけることになって……本当に、ご縁に恵まれました」

 こうして2024年、初施設となる「とりっくおあとりーと府中」は生まれました。府中への深い愛情と、諦めない心。「とりっくおあとりーと府中」は、さまざまな人の想いを背負いながら成り立っています。

一人ひとりに向き合う「1対1の魔法(とりっく)」

壁に貼られたカラフルな動物キャラクターと「きょうも1にちたのしもう!」と書かれたメッセージ。花や音符の装飾が散りばめられている幼稚園や保育園の一角。
愛らしい手作りの飾りで彩られた室内
壁に貼られたカラフルな動物キャラクターと「きょうも1にちたのしもう!」と書かれたメッセージ。花や音符の装飾が散りばめられている幼稚園や保育園の一角。
愛らしい手作りの飾りで彩られた室内

 施設の名前である『とりっくおあとりーと』の由来は、療育を表す『treatment(トリートメント)』に加え、子どもたちを振り向かせる支援者の“ワザ”、つまり『trick(トリック)』を掛け合わせたもの。ひらがなにすることで、子どもたちにも読めるようにしています。

 同施設最大の特徴は、「完全個別のマンツーマン指導」です。施設の多くが職員1人で複数人の子どもを見る体制を取っている中で、なぜこちらではマンツーマン指導にこだわるのでしょうか。

「子どもたちにとって、大人数での暮らしを体感する場所は、幼稚園や保育園など他にもあります。だからこそ、私たち発達支援施設の役目は、集団生活で見きれない部分に手を差し伸べること。一人ひとりの発達課題にじっくり向き合い、その子の苦手な事や得意な事へ個別に取り組んでいきたいと考えたら、自然と今のマンツーマン制になっていました」

白いシャツの男性が保育施設の棚からカラフルな文字が書かれたカードを取り出している場面。周囲には木製の収納棚や子供向けの遊具が見える。
子どもの気が散らないよう棚には目隠しを設置
白いシャツの男性が保育施設の棚からカラフルな文字が書かれたカードを取り出している場面。周囲には木製の収納棚や子供向けの遊具が見える。
子どもの気が散らないよう棚には目隠しを設置

 同施設では1時間の利用時間の中で、まず勉強や課題に取り組み、それが終わったらご褒美として好きな遊びをするスタイルを基本としています。これは、子どもたちが「目標のために我慢する力」や「気持ちを切り替える練習」をするための大切なプログラムだといいます。

 「最近ではトランポリンが大好きな子が、『これを頑張ればトランポリンができる!』と、苦手な課題にも一生懸命に取り組んでくれるようになりました。こうした小さな成功体験の積み重ねが、子どもたちの大きな成長につながると信じています」

 また、スタッフは全員正社員で構成。児童福祉の道一筋という経験豊富なベテラン揃いというのも心強い点です。「人がころころ変わらないので、子どもとの信頼関係も築きやすい。顔なじみの先生がいるから安心だと、利用者の親御様からは評価していただいています」と、上野さんは安定した支援体制に胸を張ります。

 さらに、府中市内であれば無料での送迎にも対応。市外の場合であっても、府中駅までは送迎可能としています。「保育園から施設へ、そして自宅まで」といった中間利用も可能なため、共働き世代の親御さんにとっては、まさに至れり尽くせりのサポート体制といえます。

ママやパパの「息抜き」も応援したい

幼児施設の一角。大きな木の壁面装飾と動物キャラクター、子供用の洗面台が配置されている。壁には「バイキン バイバイ きれいにてをあらいましょう」と書かれたポスターが貼られている。
少人数で使える贅沢な空間
幼児施設の一角。大きな木の壁面装飾と動物キャラクター、子供用の洗面台が配置されている。壁には「バイキン バイバイ きれいにてをあらいましょう」と書かれたポスターが貼られている。
少人数で使える贅沢な空間

 「とりっくおあとりーと」が行っているのは、発達に不安を持つ子どもへの支援に留まりません。平日18時からは、3歳から小学3年生までを対象とした『児童の夜間預かりサービス』も実施しています。こちらの預かり人数も最大5人までと、少人数制に変わりはありません。

「毎日子育てを頑張っているお母さん、お父さんたちに、少しだけでも自分の時間を取り戻してもらえれば嬉しいです。子どものことはプロに任せて、その間に夫婦でゆっくり食事をしたり、映画を見たり……。そうしたゆとり時間を楽しんで、『また明日から育児を頑張ろう!』と思ってもらえれば」と、上野さんは微笑みます。

 この預かりサービスは、発達の特性に関わらず誰でも利用可能。常温で食べられるものであれば、持ち込んだ夕食を食べさせてもらうこともできます。小学生であれば、一緒に宿題を行うことも。

「普段、家では勉強ができない子でも、場所を変えることで集中できるようになる子もいますからね」

地域に開かれた、みんなの“よりどころ”へ

 「施設の広々としたスペースを活かして、もっと地域の方々との接点も作っていきたい」と語る上野さんの言葉通り、『とりっくおあとりーと』では不定期に、子どもたち向けのイベントを企画しています。8月にはベビーマッサージ教室を、9月からは隔週土曜日に未就学児向けの体操教室の開催も予定しているのだとか。

 「将来的には、府中でもう1店舗出せたら嬉しいですね」と夢を語る上野さん。その目は、子どもたちだけでなく、このまちで子育てに奮闘するすべての家族の未来を見つめています。

 発達に関する明確な診断はまだなくても、日々の生活に生きづらさを感じている子どもたち。そして、そんな我が子をどうサポートすれば良いか悩む保護者たち――『とりっくおあとりーと』は、そんな一人ひとりの心に温かく寄り添いながら、確かな専門性で未来への一歩を力強く後押ししてくれる、府中の新しい“よりどころ”となりそうです。

保育園や幼稚園の室内で、白いシャツの男性がオレンジ色の縁取りがあるネット付き遊具を両手で支えている。周囲には動物キャラクターやピアノが配置された明るい室内。
子どもたちの「自分らしい成長」に貢献していく
保育園や幼稚園の室内で、白いシャツの男性がオレンジ色の縁取りがあるネット付き遊具を両手で支えている。周囲には動物キャラクターやピアノが配置された明るい室内。
子どもたちの「自分らしい成長」に貢献していく
今回取材したのは…
ガラス張りの入口がある幼児向け施設の外観。窓には「0~6歳 就学前児童の発達支援」「見学・相談随時受付中」「受付時間9:00~18:00」などの案内と電話番号が書かれた看板が貼られている。入口横のガラスにはカラフルなパズルピースの装飾と文字が見える。室内には季節の飾りや子供向けの装飾が施されている。

児童発達支援 とりっくおあとりーと府中
WEBサイトInstagram公式LINE

【施設住所】
〒183-0016 東京都府中市八幡町2-4-17共栄ビル1F
TEL : 042-319-1904
(お電話の際は「府中で暮らそう!」を見たとお伝えください)

【営業時間】
◆児童発達支援
平日/9:00〜18:00

◆夜間預かり
平日/18:00~21:00

【定休日】
土曜日、日曜日、祝日
※他事業者主催によるイベント等を実施している場合があります

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この記事を書いた人

関口裕美のアバター 関口裕美 ㈱フォートリー 代表取締役

ライター。または広告をはじめとしたクリエイティブ制作事業および採用コンサルティング事業を営む株式会社フォートリー代表取締役。好きな食べ物はイギリス菓子といちごと「爺ヤンのブルーベリー畑」さんの採れ立てブルーベリー。
プライベートは1児の母。結婚を機に府中へ移り住み、季節毎にけやき並木で行われる恒例行事やイベントを家族で楽しんでいる。