

2023年11月3日、文化の日に開店した小さなお店「Flatーおいしいものとドライフラワーのお店ー」。季節感あふれるドライフラワーの作品や、厳選された食品が並ぶ店内。窓からは緑豊かな景色が広がり、訪れる人に安らぎを与えてくれます。
Flat(フラット)の掲げるビジョンは、ドライフラワーと食品の販売だけに留まりません。目指すは、地域の人々の“よりどころ”となること。「ここに来るとほっとする」と常連さんから言われることが何よりの喜びだという店主の青田友梨奈さんと、共同経営者であるフラワーデザイナーである竹田廉さんに、お店に込めた思いを伺いました。
「価値の交換」に見出した仕事の喜び


青田さんが自分のお店を持ちたいと思うようになったのは、20歳の頃のカフェでのアルバイト経験がきっかけでした。お客さんが決まった時間に来ては、お金を置いていって、コーヒーを頼む——そんなやりとりを繰り返すうちに、お金とは『価値の交換』に過ぎないと気付いたそうです。
「お客様自身が働いて得た価値を、お金を媒介して私たちに払ってくれている。だからその分、私たちも“サービス”という価値を提供しているんだ! と電流が走りました」
その頃から青田さんは、「いつか自分個人としてお金を受け取ることができたら、こんなに幸せなことはない」と思うようになります。とはいえ、当時は一人でカフェを開くことの難しさも感じていた青田さん。いつかお店を出したいとは思いながらも、「キオスクの店員さん」や「タバコ屋のおばちゃん」のような個人経営の形を模索していたそうです。
青田さんが35歳を迎えた頃、以前から通っていた「COFFEA EXLIBRIS kettle」店内で、ふとした気づきが訪れます。
「『私はなんでこのお店が好きなんだろう』『なんで通っているんだろう』と手帳に書き出すうちに、いろんなことが見えてきて……ああ、こうした点を人生に取り入れられたら、もっと幸せになれるかもと思ったんです」
そのまま帰宅して、すぐに物件を探し始めていたという青田さん。いつか絶対にやりたいとは思っていた夢が、突風のように現実味を帯びてきた瞬間でした。


生まれた府中へ戻ることを決めた日
東府中病院で生まれ、惜しくも3歳で別の地域へ引っ越してしまったという青田さん。初めは、自宅のある調布付近で物件を探していたものの、物件を探すうちに、生まれである府中に戻ってこようと決めたのだそう。さらには、府中を知れば知るほど「本当にいいまちだな」「地元愛っていいな」と感じるようになったといいます。
「東京にもいろんなまちがあるけど、どこも徐々に均質化していると思うんです。どこに行ってもマクドナルドやスタバがあって、体験が同じになりつつある。その点、府中は歴史が長いまちでもあるけど、何よりまちの中でまちのものを消費する流れができていると思います。そういった輪の中に私たちも入って、盛り上げていきたいと考えています」と、青田さんは語ります。


オープンから約1年半が経ち、Flatには多くの常連客ができたといいます。お客様の8割はリピーターの方々。府中駅からお店までの道のりを歩いていると、ケヤキ並木や農業高校の前を通る道中で、1日に1回は顔見知りの常連さんに会うそうです。
「『おはようございます!』『あの売り切れだった商品入りましたよ』なんて立ち話をしたり、ただただ天気の話をのんびりしたり。1年でここまで皆さんにお会いする頻度が高くなっているのは嬉しいし、府中に根付きつつあるなと感じています」
二人三脚で叶えた「アーティスト」の夢
Flatを運営する青田さんと竹田さんは、それぞれ役割分担を行っています。店舗運営や食品系の発注、取引先とのやりとりなどは青田さんの担当。一方、ドライフラワーの制作やチラシの絵、デザインなどは竹田さんが担当しています。
お店のコンセプトも二人で決めました。青田さんの「日常に寄り添うようなアイテムを売りたい」という思いと、竹田さんの「アーティストになりたい」という夢が融合して生まれたのが、今のFlatの形だといいます。


もともとは生花を扱う花屋で働いていた竹田さん。自身の「アーティストになりたい」という夢に気づいたのは、青田さんとの出会いも大きかったそうです。
「昔から表現への欲は強かったように思います。そこが、社会人生活を営む中でなかなか消化しきれなくて……。それが、青田さんと出会ったことで、少しずつ輪郭を持ち始めました」と、竹田さん。
スターバックス店員だった青田さんと、花屋だった竹田さん。二人でコラボレーションをすれば、一人ではできない表現ができる。それは、二人にとって夢を叶える第一歩でもありました。
生花は取り扱いを継続する上で、どうしても難しさが出てしまう。その点、ドライフラワーであれば、日常にも非日常にもアプローチできる……。様々な試行錯誤の末、今のスタイルである「おいしいものとドライフラワーのお店」というコンセプトが生まれました。


「今までは、誰かの夢を手伝うのが自分の役目だと思っていたんですけど、今となっては違っていたとわかります。このお店を通して夢をかなえられた今では、迷いなく自分の社会人生活を楽しめていると感じます」と、竹田さんは微笑みます。
こだわりの商品と季節感あふれるドライフラワー
Flatで扱われているラインナップの中には、自然食品やオーガニックなどの商品が多くあります。しかしながら、青田さんにはそういった要素とは別に、明確な基準があるのだとか。


「絶対条件は、私がおいしいと思ったもの。どんなに体にいいものでも、おいしくなかったら店には置きません。その上で『せっかく食べてもらうなら、身体に優しいもののほうがいいかな』というくらいの、ちょっとした自然食品っぽい要素もあります。だから、そこまでがちがちな自然食品店というわけでもないんです」
仕入れを決める際には、常連さんにも試食してもらうこともあるのだとか。「いろんな目が入るからこそ、いろんな好みが聞けてありがたいです」と、青田さんは微笑みます。


一方、ドライフラワー担当の竹田さんが大事にしているのは季節感。通年流通しているお花以外に、なるべく季節に合ったお花を仕入れるようにしているそうです。製作のオーダーが入ったときには、お客様が思い描いている色味をなるべく再現できるよう、丁寧にヒアリングを行っています。
ドライフラワーの仕入れにもこだわりがあります。仕入れる際は、なるべく自然な発色のものが中心。自然と、普通に咲いているお花を乾燥させた『ナチュラルドライフラワー』が多めです。
「僕の好みは人工的な加工をされていないものですが、染色や脱色など、人の手が加われば発色自体は鮮やかになります。お客様の好みはそれぞれなので、そこは目指す仕上がりなどに応じて使うようにしています」
人々の「よりどころ」となる場所に
Flatの存在意義を、お二人は「人々のよりどころになりたい」ということばで語ります。
青田さんいわく「交流の場となるように、お店ではワークショップなどをなるべくやるようにしています」とのこと。その言葉の通り、Flatでは竹田さんがドライフラワーのワークショップを開催したり、外部のベビーマッサージ講師とコラボしたりと、さまざまな取り組みを行っています。


店舗自体の場所貸しも行っています。「Flatを使ってワークショップをやりたい」という人には、どのような企画をやりたいのかをヒアリングしながら、積極的に貸し出しを行っているのだとか。
「去年は2か月に1回、ファンミーティングという形で、常連さんとテーマを決めておしゃべりしたりしました。そこがきっかけでつながりが生まれたこともありましたね」
多くの常連客がいる一方で、まだまだ課題もあります。物価高やネット通販の台頭といった昨今の流れも、小さな個人店にとっては厳しい向かい風だといいます。
「まずは、もっと多くの方にお店の存在を知ってもらいたいです。インターネットやスーパーマーケットは便利ですが、地域と繋がりたいときには、こうした小さいお店が機能するはず。今後もお店に来やすい仕組みづくりを整えていきたいですね」


店内テーブルは1時間500円で利用できるコワーキングスペースとして開放。他にも、仕組みづくりの一環として、同店では「Flat図書館」という取り組みを行っています。これは、青田さんの私物の本を貸し出すことで、関係の足掛かりを作るというもの。「返しにいこう、借りに行こう」という気持ちが、ふらりとお店を訪れるきっかけになればと青田さんは願っています。
ただ「売る」だけではない、見えないニーズにも目を向けながら、小さな店舗スペースでできる限りを尽くそうとしているFlat。地域の人々の「よりどころ」を目指し、日々成長を続ける同店では、「ちょっとしゃべっていきたいな」と立ち寄りたくなる、あたたかな空間が芽吹きつつあります。



Flatーおいしいものとドライフラワーのお店ー
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【店舗住所】
〒183-0057 東京都府中市晴見町1-29-17
(ご連絡の際は「府中で暮らそう!」を見たとお伝えください)
【営業時間】
10:00-17:00
【定休日】
火曜日・水曜日