「やりたいことを諦めない」――親子で紡ぐ松阪牛洋食店の挑戦と希望

コロナ禍でスナック経営が困難になる中、新たな一歩を踏み出した親子の物語がここにあります。

地元・三重の松阪牛を提供する洋食店として、多くの常連客に愛される「Meat & Bar ISSEI」。店主が長年抱いてきた夢の実現と、障害を持ちながらも料理への情熱を燃やす息子との挑戦の日々には、諦めない心と温かな希望が詰まっていました。

コロナ禍から始まった新しい挑戦

「ずっと、お肉の店をやりたかったんです」。そう話す店主の山崎さんは、コロナ禍でこれまで経営していたスナック業が難しくなり、新しい挑戦を決意しました。

以前から「いつかやりたい」と考えていたお肉のお店。転機が訪れたのは、かつてランチ営業で提供した牛すじカレーの人気でした。「『このカレーは美味しい!』って評判がみるみる広がって(笑)。それをきっかけに、少しずつ新しい道が開けたんです」。

府中町で理想的な物件が見つかったのはそんな折でした。ここで山崎さんは迷うことなく店を持つことを決断します。「『この物件を逃したら後悔する』と強く感じたんですよね。いつか、無理をしてでもやっておけば良かったって思いたくなかったんです」。お店の広さも、飲食店向けの設備も揃っている。この場所に巡り会えたことを、彼女は「運命だった」と振り返ります。

松阪牛へのこだわり――朝日屋との10年以上の絆

このお店では、地元三重の誇りである松阪牛を提供しています。その仕入れ先は、長年の信頼関係を築いてきた「朝日屋」。都内で朝日屋の肉を取り扱っている店舗はたった2店舗しかなく、他には直営店が白金にあるのみです。「十年以上の付き合いがあるからこそ、お肉を仕入れさせてもらえるんです」。

それでいて、「おいしいお肉は必ずしも最高ランクでなくてもいい」と山崎さんは語ります。「同じ牛からとれたA4とA5の違いがあっても、おいしさは変わりません。おいしいものを安く食べてもらうのが私のこだわりです」。この考え方が、より多くの人に松阪牛を楽しんでもらいたいという彼女の理念に繋がっています。

「一番嬉しいのは、子どもからお年寄りまで、幅広い世代が楽しんでくれること」と笑顔で語る山崎さん。その言葉通り、お店ではお子様ランチや柔らかいステーキなど、世代を問わず楽しめるメニューが用意されています。

息子・一生の成長――障害があっても夢を諦めない

このお店には、もう一つの大切な意味があります。それは、山崎さんの息子である一生さんのためのお店であること。一生さんは「広範囲性自閉症」という知的障害を持っています。しかし一生さんは、小さな頃から料理が好きで、5歳の時には包丁を握るようになったほどでした。「料理が好きなら、その道に進むのが一番」と考えた山崎さんは、息子の興味を最大限に伸ばすサポートを続けてきました。

高校生のとき、一生さんは飲食店での実習に参加します。その中で訪れたのがサイゼリヤでした。1年生の時には地元の中華料理店で研修を行い、2年生と3年生でサイゼリヤに参加。店長や人事からも「ぜひうちで働いてほしい」と声がかかり、彼は卒業後、そのままサイゼリヤに就職しました。11年間勤めた後、親子で新たな夢に挑むことを決意します。

障害があるからと言って、できないことばかりじゃありません」と山崎さんは強調します。「むしろ一生は一度教えたことをきっちり覚えるタイプなんです。調味料の分量も完璧に把握していて、それが彼の強みになっています」。こうした特性を生かし、お店の調理や運営を任せることで、一生さんは自信をつけていきました。

「公表することで希望を」――障害のある子どもたちへのメッセージ

「一生の障害について、私は隠すつもりはありません」と、山崎さんははっきり言います。「彼が店を持てることを公表することで、同じような障害を持つ子どもたちやその親に希望を持ってほしいんです」。

支援学校に通う子どもたちの親は、「就職できるのだろうか」「自立できるのだろうか」と不安に思うことが多いと山崎さんは言います。しかし、一生さんがサイゼリヤで11年間働き、今ではお店の経営に携わっている事実が、他の親子にとって希望の光となることを願っています。

障害があっても、やりたいことを諦めずに挑戦できるということを、親として伝えていきたいんです。社会には障害者を支援する制度もありますが、何より大事なのは、本人の強みを見つけて伸ばしていくこと」。

自立への道―― 一人暮らしと家族の支え

一生さんは現在、一人暮らしをしています。山崎さんは息子である一生さんに、家事や料理など生活の基本を早い段階から教えてきました。「自分で生活できなければ、親がいなくなったときに困るのは本人です」。その思いから、親としてできる限りのサポートを続けてきました。

「もちろん、家賃はまだ私たちが負担していますが、食事や生活は自分でやっています」と語る山崎さん。「自分のお給料の中で生活する難しさを学びながら、少しずつ自立の準備を進めています」。

地元に根ざした「みんなの洋食屋さん」

このお店の目指すのは、「気軽に美味しい洋食が楽しめる場所」。メニューはできる限りリーズナブルに設定され、特別な日でなくても気軽に立ち寄れるよう配慮されています。「地元に愛され、子どもからお年寄りまで楽しめるお店にしたい」と語る山崎さんの願いは、多くの常連客によって支えられています。

印象深かったのは、この日の取材中にいたお客様から、「うちの弟なんて、大ケガして満身創痍だったのに、ISSEIの牛すじカレーを食べた途端、あっという間に元気になったんだから!」とお墨付きをいただいたこと。

「おじいちゃんおばあちゃんでも、柔らかいお肉なら美味しく食べてもらえます。そんなお店にしたいんです」。 最後に、山崎さんはこう語りました。「やりたいことを諦めたくなかったんです。挑戦することで得られるものがある。だからこそ、これからも多くの人に美味しいお肉を届けていきたい」。その言葉からは、親としての愛情と、経営者としての情熱が溢れていました。

取材班おすすめメニューは、看板メニューでもある『牛すじカレー』!
しっかり煮込まれたとろとろの美味しさは、ランチ・ディナーどちらでも楽しめます。ぜひ!

今回取材したのは…

Meat & Bar ISSEI

〒183-0055
東京都府中市府中町2丁目6−1 プラウド府中セントラル 2階14
TEL : 042-334-3355

営業時間 : 火水金土/11:30 – 14:00、17:00 – 22:00(L.O. 21:00)
     月木/17:00 – 22:00(L.O. 21:00)
定休日:日曜、祝日

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この記事を書いた人

関口裕美のアバター 関口裕美 ㈱フォートリー 代表取締役

ライター。または広告をはじめとしたクリエイティブ制作事業および採用コンサルティング事業を営む株式会社フォートリー代表取締役。好きな食べ物はイギリス菓子といちごと「爺ヤンのブルーベリー畑」さんの採れ立てブルーベリー。
プライベートは1児の母。結婚を機に府中へ移り住み、季節毎にけやき並木で行われる恒例行事やイベントを家族で楽しんでいる。