大國魂神社から長く伸びるケヤキ並木。その通り沿いに佇む「大國家(おおくにや)」は、開店以来多くのファンに愛されている家系ラーメン専門店です。
大國家は、家系ラーメンの名店として知られる「横浜家系ラーメン武道家」や「武道家 龍」、「武蔵家」等で15年の経験を積んだ店主・木村龍二さんが、集大成として開いた店です。常連客から「肉の旨みが際立つスープ」と評される一杯を提供する傍ら、地域活動にも積極的に取り組む木村さん。今回は、そんな木村さんが、府中のまちに魅せられ、ここでしか表現できない味を追求する日々について伺いました。
府中との縁が導いた新たな挑戦
木村さんが府中に移り住んだのは6年前のこと。もともと妻の実家が府中だったことから決めた転居ではあったものの、次第にこのまち独特の温かさに惹かれていきました。
「朝、開店準備をしていると、通りがかる小学生たちが『ラーメン屋さん、がんばってね』と声をかけてくれるんです。他にも、見た目は少しやんちゃな青年が、食券を丁寧に出して『お願いします』と挨拶してくれたり……とにかく、このまちで出会う“人”が本当に素敵なんですよね」
人と人とのつながりを大切にする雰囲気に惹かれた木村さんが「府中で自分の店を持ちたい」と思うようになったのは約3年前。いいタイミングで物件の空きが出たこともあり、開業を決意するに至ったといいます。
店名である「大國家(おおくにや)」は、武蔵国の守り神として古くより祀られている大國魂神社にあやかって付けたもの。地元から愛される大國魂神社のように、あたたかく人々を迎える場所でありたいと考え、神社からも「ぜひ使ってください」と受け入れてもらえたというエピソードからも、木村さんの人柄が伺えます。
日々進化する「一杯」へのこだわり
「武道家」や「武蔵家」等の名店で、約15年にわたって修行を続けてきた木村さん。意外にも、もともとはラーメンを究めることに対して、特段強い志はなかったのだそう。しかしながら、やればやるほど面白くなっていくのもまた、ラーメンの持つ不思議な魅力なのだといいます。
木村さんが最もこだわりを持っているのは、そのスープ。彼はこのスープについて、毎日同じものを作ることはできないと語ります。
「基本となるレシピは変わらなくても、使っている食材は鶏ガラなど、生き物由来のものが中心。季節や気候、そもそもの個体差など、さまざまな要因による変化を見極めながら、最高の一杯を目指して試行錯誤を重ねています」
夏場はラーメン屋にとって特に難しい季節だといいます。鶏も暑さの影響を受けるので、卵が剥きづらくなるなど、ロスが出ることも多いのだとか。「毎日、卵の茹で具合を調整しているうちに夏が終わってしまうんですよ」と木村さんは笑います。
そんな苦労を乗り越えて生み出される一杯は、仲のいい同業者から『肉出汁』と評される味わい。旨味が濃く溶け出し、がつんと来るスープは、木村さん自身がずっとやりたかったことを体現した集大成とも言えるでしょう。
時には他店から「スープを勉強させてほしい」と同業者が訪れることもあるそう。そんなときは、カエシのないスープ単体だけを提供して、味の層を感じてもらうようにしています。「醤油がなくてこんな味がするなんて」と感動される一方で、作り方を教えるのは難しい、と木村さん。いわく、スープは15年の修行による“体感”で成り立っているものなので、言葉ではどうにもうまく作り方を説明できないとのこと。
「なので、『どうぞ来てください、勝手に見ていってください』という感じです。たぶんできないとは思いますが……なんて、こういうことを言うと頑固ラーメン屋っぽいですかね(笑)」
競馬文化が育む、独特の賑わい
府中で営業をしていると、週末の賑わいに驚かされるという木村さん。これまで働いていたオフィス街や学生街は平日が混雑したのに対して、この辺りは土日が特に混むのだといいます。
中でも影響が顕著に出るのは、東京競馬場の開催期間かどうか。特にG1など大きなレースの開催日には、いつも以上に多くの人が訪れます。「週末の競馬開催日は最大200杯ほど提供することもある」と、木村さん。遠方から競馬を見に来たついでに立ち寄る人もいれば、競馬記者や騎手が話題に挙げていたのを聞いて来店する人もいるそうで、次第に競馬ファンの常連さんも増えているといいます。
平日と週末で客層が大きく変わる中、地元の常連客は混雑を避けて来店時間を調整してくれる人も多いとのこと。通称『クーニーズ』と呼ばれる熱いサポーターも多い大國家。「お店を愛してくれるお客様一人ひとりによって成り立っています」と木村さんは照れくさそうに教えてくれました。
地域に根ざす、もうひとつの使命
府中でラーメン屋を開業したのには、もうひとつ理由があります。それは、愛する息子の存在です。木村さんの長男には先天性の身体障がいがあり、普段は車椅子による生活を送っています。木村さんは父として、かねてから息子が自分らしく生きていくための手助けができればと考えていました。
「店をやれば、少なくとも府中の子どもたちからは『あいつ、ケヤキ並木通りにあるラーメン屋のところの子らしいよ』と、受け入れてもらえる土壌ができると思ったんです。今思えば、これが店を出した一番大きな理由だったかもしれません」
大國家の店舗入口は完全フラットで、ベビーカーや車椅子の入店もOK。椅子が固定式となっているラーメン店が多い中で、大國家は一部の席を移動可能な造りにしています。これも、車椅子の方や身体が不自由な方、お子様連れの方まで、すべての人に気兼ねなくお店に来てほしいという木村さんの想いを反映したもの。設計段階から業者と折衝を重ね、特注したこだわりの部分です。
最近では子ども食堂の手伝いなども行っています。「食材を持っていったり、当日の運営をサポートしたり……時には店より忙しいくらい盛況しますよ」と笑顔で語る木村さん。志を同じくする仲間とともに、現在は月1回ペースで行っているそうですが、将来は週1回のペースを目指しているのだとか。ゆくゆくは店休日に、大國家で子ども食堂を開くのも夢のひとつだと話してくれました。
「世の中にはいろんな人がいますよね。事情もそれぞれあると思いますが、僕たちにとっては全てが大事なお客様です。もしも大國家に興味を持っていただけたのなら、どうぞ、何も気にせずお越しください」
府中と共に歩む未来へ
「府中のまちが好きだから、これから店がどう変わっていったとしても、僕はこの店、このまちにずっといると思います」。そう語る木村さんの言葉には、確かな決意が感じられました。
府中への深い愛着から生まれた大國家は、今や街に欠かせない存在となっています。日々変化するスープと向き合いながら、地域の人々との絆を育み、府中の新たな食文化を築いていく──その歩みは、まさにこの“まち”と共にあるのです。
ラーメン 大國家(おおくにや)
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【店舗住所】
〒183-0056 東京府中市寿町1-1-4はなわビル1階
TEL : 042-340-3203
(お電話の際は「府中で暮らそう!」を見たとお伝えください)
【営業時間】
◆月曜日、水曜日~土曜日
11:00-15:00、17:00~20:00(L.O. 19:45)
◆日曜日
11:00~18:00
※スープ調整のため15:00〜1時間程中閉めする場合あり
【定休日】
火曜日、ほか不定休