府中に魅せられた店主が紡ぐ、ラーメンと人情の物語──大國家・木村龍二の挑戦

ラーメン店「大國家」の店頭で腕を組む男性のポートレート。黒いジャケットを着た男性が微笑み、自信に満ちた表情を見せている。背景には店内の様子が映り、食券機や装飾品、注意書きの掲示物が見える。ガラス扉には「大國家」の文字が反射し、温かみと親しみやすさを感じさせる店舗の雰囲気が伝わる写真。
ラーメン「大國家」 店主・木村龍二さん
ラーメン店「大國家」の店頭で腕を組む男性のポートレート。黒いジャケットを着た男性が微笑み、自信に満ちた表情を見せている。背景には店内の様子が映り、食券機や装飾品、注意書きの掲示物が見える。ガラス扉には「大國家」の文字が反射し、温かみと親しみやすさを感じさせる店舗の雰囲気が伝わる写真。
ラーメン「大國家」 店主・木村龍二さん

 大國魂神社から長く伸びるケヤキ並木。その通り沿いに佇む「大國家(おおくにや)」は、開店以来多くのファンに愛されている家系ラーメン専門店です。

 大國家は、家系ラーメンの名店として知られる「横浜家系ラーメン武道家」や「武道家 龍」、「武蔵家」等で15年の経験を積んだ店主・木村龍二さんが、集大成として開いた店です。常連客から「肉の旨みが際立つスープ」と評される一杯を提供する傍ら、地域活動にも積極的に取り組む木村さん。今回は、そんな木村さんが、府中のまちに魅せられ、ここでしか表現できない味を追求する日々について伺いました。

府中との縁が導いた新たな挑戦

 木村さんが府中に移り住んだのは6年前のこと。もともと妻の実家が府中だったことから決めた転居ではあったものの、次第にこのまち独特の温かさに惹かれていきました。

ラーメン店のカウンター席で笑顔を見せる男性の写真。男性は黒いジャケットを着てリラックスした様子で座っている。カウンターには調味料や箸が整然と並び、壁には店の案内やメニューが掲示されている。温かみのある木目調の内装が特徴で、アットホームで居心地の良さを感じさせる店内の雰囲気が伝わる。
府中は「自然と人が知り合いになっていくまち」
ラーメン店のカウンター席で笑顔を見せる男性の写真。男性は黒いジャケットを着てリラックスした様子で座っている。カウンターには調味料や箸が整然と並び、壁には店の案内やメニューが掲示されている。温かみのある木目調の内装が特徴で、アットホームで居心地の良さを感じさせる店内の雰囲気が伝わる。
府中は「自然と人が知り合いになっていくまち」

 「朝、開店準備をしていると、通りがかる小学生たちが『ラーメン屋さん、がんばってね』と声をかけてくれるんです。他にも、見た目は少しやんちゃな青年が、食券を丁寧に出して『お願いします』と挨拶してくれたり……とにかく、このまちで出会う“人”が本当に素敵なんですよね」

 人と人とのつながりを大切にする雰囲気に惹かれた木村さんが「府中で自分の店を持ちたい」と思うようになったのは約3年前。いいタイミングで物件の空きが出たこともあり、開業を決意するに至ったといいます。

地元では馴染みのある名前をつける責任
地元では馴染みのある名前をつける責任

 店名である「大國家(おおくにや)」は、武蔵国の守り神として古くより祀られている大國魂神社にあやかって付けたもの。地元から愛される大國魂神社のように、あたたかく人々を迎える場所でありたいと考え、神社からも「ぜひ使ってください」と受け入れてもらえたというエピソードからも、木村さんの人柄が伺えます。

日々進化する「一杯」へのこだわり

 「武道家」や「武蔵家」等の名店で、約15年にわたって修行を続けてきた木村さん。意外にも、もともとはラーメンを究めることに対して、特段強い志はなかったのだそう。しかしながら、やればやるほど面白くなっていくのもまた、ラーメンの持つ不思議な魅力なのだといいます。

 木村さんが最もこだわりを持っているのは、そのスープ。彼はこのスープについて、毎日同じものを作ることはできないと語ります。

厨房で大きな鍋をかき混ぜる男性の写真。男性は黒いジャケットを着て、真剣な表情で木製の大きな棒を使い作業している。背景にはステンレス製の調理台や調理器具が並び、清潔感のある厨房の様子がうかがえる。動きが感じられる写真で、料理に対する熱心な姿勢が伝わる。
家系という感覚はなく、ただ好きな味を追求している
厨房で大きな鍋をかき混ぜる男性の写真。男性は黒いジャケットを着て、真剣な表情で木製の大きな棒を使い作業している。背景にはステンレス製の調理台や調理器具が並び、清潔感のある厨房の様子がうかがえる。動きが感じられる写真で、料理に対する熱心な姿勢が伝わる。
家系という感覚はなく、ただ好きな味を追求している

「基本となるレシピは変わらなくても、使っている食材は鶏ガラなど、生き物由来のものが中心。季節や気候、そもそもの個体差など、さまざまな要因による変化を見極めながら、最高の一杯を目指して試行錯誤を重ねています」

 夏場はラーメン屋にとって特に難しい季節だといいます。鶏も暑さの影響を受けるので、卵が剥きづらくなるなど、ロスが出ることも多いのだとか。「毎日、卵の茹で具合を調整しているうちに夏が終わってしまうんですよ」と木村さんは笑います。

 そんな苦労を乗り越えて生み出される一杯は、仲のいい同業者から『肉出汁』と評される味わい。旨味が濃く溶け出し、がつんと来るスープは、木村さん自身がずっとやりたかったことを体現した集大成とも言えるでしょう。

濃厚なスープの家系ラーメンの写真。黒い丼に盛られたラーメンには、大きなチャーシュー、半熟味玉、ほうれん草、刻み揚げ、そして縦に並んだ海苔がトッピングされている。スープは茶色で、しっかりとしたコクが感じられる見た目。木目調のカウンターと調味料の容器が背景に映り、ラーメン店の温かい雰囲気を伝える一枚。
こだわりのスープはしっかりとした濃度がある
濃厚なスープの家系ラーメンの写真。黒い丼に盛られたラーメンには、大きなチャーシュー、半熟味玉、ほうれん草、刻み揚げ、そして縦に並んだ海苔がトッピングされている。スープは茶色で、しっかりとしたコクが感じられる見た目。木目調のカウンターと調味料の容器が背景に映り、ラーメン店の温かい雰囲気を伝える一枚。
こだわりのスープはしっかりとした濃度がある

 時には他店から「スープを勉強させてほしい」と同業者が訪れることもあるそう。そんなときは、カエシのないスープ単体だけを提供して、味の層を感じてもらうようにしています。「醤油がなくてこんな味がするなんて」と感動される一方で、作り方を教えるのは難しい、と木村さん。いわく、スープは15年の修行による“体感”で成り立っているものなので、言葉ではどうにもうまく作り方を説明できないとのこと。

「なので、『どうぞ来てください、勝手に見ていってください』という感じです。たぶんできないとは思いますが……なんて、こういうことを言うと頑固ラーメン屋っぽいですかね(笑)」

競馬文化が育む、独特の賑わい

 府中で営業をしていると、週末の賑わいに驚かされるという木村さん。これまで働いていたオフィス街や学生街は平日が混雑したのに対して、この辺りは土日が特に混むのだといいます。

 中でも影響が顕著に出るのは、東京競馬場の開催期間かどうか。特にG1など大きなレースの開催日には、いつも以上に多くの人が訪れます。「週末の競馬開催日は最大200杯ほど提供することもある」と、木村さん。遠方から競馬を見に来たついでに立ち寄る人もいれば、競馬記者や騎手が話題に挙げていたのを聞いて来店する人もいるそうで、次第に競馬ファンの常連さんも増えているといいます。

ラーメン店内に飾られた競馬の優勝旗の写真。紫や赤の色鮮やかな布地に「宝塚記念」「ジャパンカップ」「天皇賞」「有馬記念」などの文字が金色で刺繍されており、端には金のフリンジが付いている。背景には壁掛け時計の一部が映り、店内のこだわりとユニークな装飾が伝わる一枚。
店内の競馬グッズはお客様の持ち込み
ラーメン店内に飾られた競馬の優勝旗の写真。紫や赤の色鮮やかな布地に「宝塚記念」「ジャパンカップ」「天皇賞」「有馬記念」などの文字が金色で刺繍されており、端には金のフリンジが付いている。背景には壁掛け時計の一部が映り、店内のこだわりとユニークな装飾が伝わる一枚。
店内の競馬グッズはお客様の持ち込み

 平日と週末で客層が大きく変わる中、地元の常連客は混雑を避けて来店時間を調整してくれる人も多いとのこと。通称『クーニーズ』と呼ばれる熱いサポーターも多い大國家。「お店を愛してくれるお客様一人ひとりによって成り立っています」と木村さんは照れくさそうに教えてくれました。

地域に根ざす、もうひとつの使命

 府中でラーメン屋を開業したのには、もうひとつ理由があります。それは、愛する息子の存在です。木村さんの長男には先天性の身体障がいがあり、普段は車椅子による生活を送っています。木村さんは父として、かねてから息子が自分らしく生きていくための手助けができればと考えていました。

ラーメン店「大國家」の店内装飾の写真。壁には「大國家」のイラストやラーメンの写真、1周年記念ポスターが飾られている。棚の上には招き猫、黄色いアヒルのおもちゃ、スピーカーなどが置かれ、ユニークで温かみのある雰囲気が伝わる。キャラクター人形や細かい装飾品が店主の個性を反映している。
お客様から寄せられた贈り物の数々
ラーメン店「大國家」の店内装飾の写真。壁には「大國家」のイラストやラーメンの写真、1周年記念ポスターが飾られている。棚の上には招き猫、黄色いアヒルのおもちゃ、スピーカーなどが置かれ、ユニークで温かみのある雰囲気が伝わる。キャラクター人形や細かい装飾品が店主の個性を反映している。
お客様から寄せられた贈り物の数々

「店をやれば、少なくとも府中の子どもたちからは『あいつ、ケヤキ並木通りにあるラーメン屋のところの子らしいよ』と、受け入れてもらえる土壌ができると思ったんです。今思えば、これが店を出した一番大きな理由だったかもしれません」

 大國家の店舗入口は完全フラットで、ベビーカーや車椅子の入店もOK。椅子が固定式となっているラーメン店が多い中で、大國家は一部の席を移動可能な造りにしています。これも、車椅子の方や身体が不自由な方、お子様連れの方まで、すべての人に気兼ねなくお店に来てほしいという木村さんの想いを反映したもの。設計段階から業者と折衝を重ね、特注したこだわりの部分です。

カウンター越しに笑顔でどんぶりを差し出す男性の写真。男性は黒いジャケットを着ており、背景にはシンプルな白い壁と調理場の一部が見える。温かい雰囲気で、お客様に料理を提供する場面を想起させる構図。
すべての人に楽しんでほしい想いがある
カウンター越しに笑顔でどんぶりを差し出す男性の写真。男性は黒いジャケットを着ており、背景にはシンプルな白い壁と調理場の一部が見える。温かい雰囲気で、お客様に料理を提供する場面を想起させる構図。
すべての人に楽しんでほしい想いがある

 最近では子ども食堂の手伝いなども行っています。「食材を持っていったり、当日の運営をサポートしたり……時には店より忙しいくらい盛況しますよ」と笑顔で語る木村さん。志を同じくする仲間とともに、現在は月1回ペースで行っているそうですが、将来は週1回のペースを目指しているのだとか。ゆくゆくは店休日に、大國家で子ども食堂を開くのも夢のひとつだと話してくれました。

「世の中にはいろんな人がいますよね。事情もそれぞれあると思いますが、僕たちにとっては全てが大事なお客様です。もしも大國家に興味を持っていただけたのなら、どうぞ、何も気にせずお越しください

府中と共に歩む未来へ

 「府中のまちが好きだから、これから店がどう変わっていったとしても、僕はこの店、このまちにずっといると思います」。そう語る木村さんの言葉には、確かな決意が感じられました。

 府中への深い愛着から生まれた大國家は、今や街に欠かせない存在となっています。日々変化するスープと向き合いながら、地域の人々との絆を育み、府中の新たな食文化を築いていく──その歩みは、まさにこの“まち”と共にあるのです。

ラーメン店「大國家」の店頭で腕を組んで立つ男性の写真。黒いジャケットを着た男性が微笑みながら自信に満ちた様子でポーズを取っている。店舗の看板には金色の文字で「大國家」と書かれ、店内にはメニューや装飾が見える。右側には入り口の暖簾が垂れ下がり、左側には階段が写っている。温かみと親しみやすさを感じる店の外観が特徴的。
これからも府中で生きていく決意とともに
ラーメン店「大國家」の店頭で腕を組んで立つ男性の写真。黒いジャケットを着た男性が微笑みながら自信に満ちた様子でポーズを取っている。店舗の看板には金色の文字で「大國家」と書かれ、店内にはメニューや装飾が見える。右側には入り口の暖簾が垂れ下がり、左側には階段が写っている。温かみと親しみやすさを感じる店の外観が特徴的。
これからも府中で生きていく決意とともに
今回取材したのは…
ラーメン店「大國家」の店舗前で腕を組んで立つ男性の写真。黒い看板に金色の文字で「ラーメン 大國家」と書かれており、店内がガラス越しに見える。入り口には暖簾が掛けられ、店内には調味料や道具が整然と並べられている。左側には「はなわビル」の看板と階段が写り、右側には壁に貼られた選挙ポスターが見える。親しみやすい雰囲気と店主の自信が感じられる一枚。

ラーメン 大國家(おおくにや)
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【店舗住所】
〒183-0056 東京府中市寿町1-1-4はなわビル1階
TEL : 042-340-3203
(お電話の際は「府中で暮らそう!」を見たとお伝えください)

【営業時間】
◆月曜日、水曜日~土曜日
11:00-15:00、17:00~20:00(L.O. 19:45)

◆日曜日
11:00~18:00
※スープ調整のため15:00〜1時間程中閉めする場合あり

【定休日】
火曜日、ほか不定休

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この記事を書いた人

関口裕美のアバター 関口裕美 ㈱フォートリー 代表取締役

ライター。または広告をはじめとしたクリエイティブ制作事業および採用コンサルティング事業を営む株式会社フォートリー代表取締役。好きな食べ物はイギリス菓子といちごと「爺ヤンのブルーベリー畑」さんの採れ立てブルーベリー。
プライベートは1児の母。結婚を機に府中へ移り住み、季節毎にけやき並木で行われる恒例行事やイベントを家族で楽しんでいる。