「障害は社会にある」──教育と福祉をつなぐ”陽のあたるばしょ”の挑戦

教室内で笑顔を見せる男性の写真。白い壁と整理棚が背景にあり、棚にはカラフルなボックスや教材が置かれています。手前には子ども用のおもちゃや遊具が見え、明るく親しみやすい雰囲気が伝わります。
株式会社コーチャーズ 代表取締役・宮﨑真吾さん
教室内で笑顔を見せる男性の写真。白い壁と整理棚が背景にあり、棚にはカラフルなボックスや教材が置かれています。手前には子ども用のおもちゃや遊具が見え、明るく親しみやすい雰囲気が伝わります。
株式会社コーチャーズ 代表取締役・宮﨑真吾さん

 「文部科学省の調査では、現代の子どもたちの約10%は発達障害の特性を持つといわれています※1。一方で、府中市の小学生の数は約14,800人。つまり、30人クラスであれば3人は何らかの生きづらさを抱えている可能性があるんです」。そう語るのは、清水が丘で児童発達支援・放課後等デイサービス「陽のあたるばしょ」を運営する株式会社コーチャーズ 代表取締役の宮﨑真吾さん。まだまだ十分とは言えない支援体制を変えようと、教育の現場に一歩踏み込んだ支援を始めた経緯と、誰もが自分らしく輝ける社会を目指す取り組みに迫ります。

※1文部科学省│通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)について

教育現場で広がる「保育所等訪問支援」

 「陽のあたるばしょ」は、未就学児を対象とした児童発達支援事業所と、支援を必要とする就学児童および生徒向けの放課後等デイサービスを併設した『多機能型事業所』です。本取材が行われた2024年12月時点で、放課後等デイサービスはすでに満員。地域の中でも人気の高い事業所として、発達に悩む親御さんの間でじわじわと評判が広がっています。

 そんな中、宮﨑さんが昨年から新たな一手としてスタートしたのが、「保育所等訪問支援」という事業でした。「保育所等訪問支援」は、教育現場に直接支援者が入り込む、これまでの府中にはなかった新しいアプローチです。

「陽のあたるばしょ 府中市の保育所等訪問支援」のウェブページ。青空の下、ランドセルを背負った子どもたちが草原を楽しそうに歩いている写真がトップに配置されています。ページには、訪問支援実績として「幼稚園/保育園: 5か所、小学校: 9か所、利用児童数: 21名」と記載されています。下部には「誰一人取り残さない、インクルーシブ教育の街を実現する」とのメッセージが書かれ、支援活動の理念が伝わるデザインです。
新たに始まった保育所等訪問支援サービス
「陽のあたるばしょ 府中市の保育所等訪問支援」のウェブページ。青空の下、ランドセルを背負った子どもたちが草原を楽しそうに歩いている写真がトップに配置されています。ページには、訪問支援実績として「幼稚園/保育園: 5か所、小学校: 9か所、利用児童数: 21名」と記載されています。下部には「誰一人取り残さない、インクルーシブ教育の街を実現する」とのメッセージが書かれ、支援活動の理念が伝わるデザインです。
新たに始まった保育所等訪問支援サービス

 「府中市ではインクルーシブ教育を目指すという観点から、いわゆる『情緒学級※2』というものを設けていません。つまり、知的障害などと診断されない限りは通常学級に通うしかありません」と、宮崎さん。

※2【情緒学級とは】
「特別支援学級」の一種。
知的障害はないが、対人関係等の構築が難しい子ども向けの少人数クラスなど。

 宮﨑さんは、情緒学級が存在しないこと自体を悪いとは思っていません。しかしながら、「クラスを分けない」=インクルーシブ教育だ、となってしまっている現状には大きな疑問があるといいます。

「情緒学級を作らない代わりに、たとえば、通常学級では難しい子どもたちが過ごしやすくするための工夫をしているのであれば、それはインクルーシブ教育といえるでしょう。ですが、単に同じクラスに入れるだけでは、やはり不十分ではないでしょうか」

真のインクルーシブ教育を目指して

野菜畑を指さす男性の写真。畑にはキャベツのような緑の葉野菜が整然と植えられており、右側には住宅街が見えます。左側にはビニールハウスや農作業用のトラクターがあり、地面には青い袋が積まれています。男性は畑の一部を指しながら説明している様子です。
隣にある畑では収穫体験なども行っている
野菜畑を指さす男性の写真。畑にはキャベツのような緑の葉野菜が整然と植えられており、右側には住宅街が見えます。左側にはビニールハウスや農作業用のトラクターがあり、地面には青い袋が積まれています。男性は畑の一部を指しながら説明している様子です。
隣にある畑では収穫体験なども行っている

 「福祉と教育が分断されている現状では、十分な支援が行き届かない」と語る宮崎さん。そこで「陽のあたるばしょ」では、授業中の教室に入り込み、環境を調整しながら子どもたちが安心して学べる環境を作り出しています。教育現場の先生と連携し、授業の妨げにならない形でサポートする仕組みは、地域のインクルーシブ教育に新しい可能性を示しています。

 「学校という教育の現場に入っていき、環境調整のために先生たちや学校側とコミュニケーションを取りながら間接支援していく──これが本当に面白いんです」と、宮﨑さん。福祉について詳しい人材がどうしても少ない教育現場に、プロフェッショナルとして支援を入れるやりがいを感じています。

 とはいえ、こうした生きづらさを生み出しているのは、必ずしも教育側のみの問題ではないといいます。

「これまでの福祉は、限られた時間しか介入できませんでした。1日あたり2時間の支援を週3日行ったとしても、子どもが学校と家庭で過ごす時間に比べれば微々たるもの。だからこそ、お節介なくらいに入り込んでいくくらいでちょうどいいんです

 宮﨑さんは、利用者である保護者の方々にも積極的な情報提供を行っています。教育と福祉、そして保護者という三者がお互いにがっちり手を結んでいくことで、子どもたちのより良い未来へ進んでいけると信じています。

持続可能な支援への挑戦

 宮﨑さんの会社である株式会社コーチャーズの理念は、「働くことで幸せを感じる人を増やす」というもの。その中で、彼がひときわ思いを強くしたのは、精神障害者の就労率の低さに対してでした。

 厚生労働省が2024年3月27日に公表した「令和5年度障害者雇用実態調査」では、精神障害者の雇用者数は推計で21万5,000人とされています。一方、内閣府の「令和5年版障害者白書」によれば、精神障害者の総数は614万8,000人と推計されています。これらの数値を基に単純計算すると、精神障害者の就労率は約3.5%となります。

教室内でノートパソコンを使いながら話をしている男性の写真。窓から明るい自然光が差し込み、背景には子ども用の椅子やおもちゃが置かれています。男性は楽しげな表情で手を動かし、会話をしているような様子が伝わります。
福祉と教育が手を取り合う未来を目指したい
教室内でノートパソコンを使いながら話をしている男性の写真。窓から明るい自然光が差し込み、背景には子ども用の椅子やおもちゃが置かれています。男性は楽しげな表情で手を動かし、会話をしているような様子が伝わります。
福祉と教育が手を取り合う未来を目指したい

 地域企業が障害者を普通に雇用できる社会づくりを目指している宮﨑さん。地域企業が障害者を普通に雇用できる社会を創るためには、特性に応じた支援を進めていかねばなりません。その足掛かりとして始めたのが、現在のような子ども向けの支援事業だったといいます。

 「障害はその人の中にあるのではなく、社会の側にあるんです。その人自身に問題があるのではなく、その人を生きづらくしている社会の側に問題がある。みんながそれぞれの『自分らしさ』を発揮しながら、一般の地域企業が当たり前のように多彩な人を採用していく、そんな共創社会を作っていきたいですね」

 とはいえ課題も多くあります。「保育所等訪問支援」は他の支援事業と比べて参入障壁が高く、継続するためには強いモチベーションが必要です。「まだまだ『学校現場に直接入る』という仕組みが認知されていないため、子ども1人を受け入れるごとに、何度も市役所や学校を交えた協議を重ねるなど、説明と調整に時間がかかります」と宮﨑さん。それでも今後はこの支援を中心に据え、ゆくゆくは府中市内で100名の利用者獲得を目指しています

サポートサービスの説明ページ。上部に「提供するサービス」と書かれ、左側には教室で生徒と話す先生の写真が表示されています。右側には「program 1 直接支援」と「program 2 間接支援」の詳細が書かれています。直接支援は児童に寄り添った支援、間接支援は訪問先スタッフとの連携によるサポートを提供する内容が説明されています。清潔感のあるデザインで、温かい雰囲気が伝わります。
陽のあたるばしょ|府中市の保育所等訪問支援の提供サービス
サポートサービスの説明ページ。上部に「提供するサービス」と書かれ、左側には教室で生徒と話す先生の写真が表示されています。右側には「program 1 直接支援」と「program 2 間接支援」の詳細が書かれています。直接支援は児童に寄り添った支援、間接支援は訪問先スタッフとの連携によるサポートを提供する内容が説明されています。清潔感のあるデザインで、温かい雰囲気が伝わります。
陽のあたるばしょ|府中市の保育所等訪問支援の提供サービス

 来年には施設数を増やし、現在の定員を分割することで、各子どもに対する支援の質をさらに高める計画も進行中。「まずは地域に根ざした活動を広げ、持続可能な支援モデルを確立したい」と、宮﨑さんの目は福祉の明日を見つめています。

みんなが自分らしく輝ける社会へ

 「子どもと向き合う上で、専門知識の有無はさしたる問題ではありません。純粋に、目の前にいる子のために向き合える人が増えるだけで、社会はもっと生きやすくなる。どれだけ教育と福祉のパイプ役として動くとしても、この価値観だけはこの先も大事にしていきたいですね」と笑う宮﨑さん。誰もが自分らしさを発揮できる社会──その実現に向けて、地域に根ざした温かな支援の輪が、少しずつ広がっています。

レンガ調の外壁の建物の前で笑顔を見せる男性の写真。建物の一部には窓や階段があり、右側に鉄製の階段が見えます。男性はカジュアルなグレーのセーターを着ており、落ち着いた雰囲気の住宅街の中で撮影されています。
府中市の子どもの未来と向き合っていく
レンガ調の外壁の建物の前で笑顔を見せる男性の写真。建物の一部には窓や階段があり、右側に鉄製の階段が見えます。男性はカジュアルなグレーのセーターを着ており、落ち着いた雰囲気の住宅街の中で撮影されています。
府中市の子どもの未来と向き合っていく
今回取材したのは…
道路沿いにある2階建ての住宅兼店舗の建物。レンガ調の外壁に黒い階段が特徴的で、右下には自動販売機と看板が見えます。隣には淡い水色のスチール製階段を備えた別の建物があります。手前には植え込みが整備され、落ち着いた住宅街の一角が描かれています。

陽のあたるばしょ
保育所等訪問支援児童発達支援・放課後等デイサービスInstagram

【施設住所】
〒183-0015 東京都府中市清水が丘2-56-18
TEL : 042-310-9108
(お電話の際は「府中で暮らそう!」を見たとお伝えください)

【営業時間】
◆平日
10:00-18:30

【定休日】
日曜日、祝日

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

関口裕美のアバター 関口裕美 ㈱フォートリー 代表取締役

ライター。または広告をはじめとしたクリエイティブ制作事業および採用コンサルティング事業を営む株式会社フォートリー代表取締役。好きな食べ物はイギリス菓子といちごと「爺ヤンのブルーベリー畑」さんの採れ立てブルーベリー。
プライベートは1児の母。結婚を機に府中へ移り住み、季節毎にけやき並木で行われる恒例行事やイベントを家族で楽しんでいる。