「まるで広い公園でピクニックでもするように、のびのびとコンサートを楽しんでほしい」。そう語るのは、親子で非認知能力を育むリトミック教室「nicoリト」を主宰する柴田由香莉さん。2024年12月28日(土)、親子で楽しめる超参加型のインクルーシブな親子コンサート「ピクニックコンサート」を開催する背景にはどのようなストーリーがあったのか、そして、これからのご予定や展望について伺いました。
おぼろげだった夢を現実にするまで
「いつか“おかあさんといっしょ”のようなコンサートをやりたいと思っていた」と語る柴田さん。しかしながら、初めはこの夢も潜在的な憧れにすぎませんでした。2024年に開校したリトミック教室「nicoリト」を軌道に乗せていく中で、市が運営する地域課題解決プラットフォーム「みんぷら」での対話が転機となり、徐々に具体性を持つようになってきたといいます。
「幼稚園教諭をしていた頃も、今のリトミック教室でも、変わらずに感じるのは『世の中のママたちって、本当に頑張ってるな』という気持ち。日々一生懸命に子どもたちを育てながらも、周りにはなるべく迷惑をかけないように……と配慮して、悩んで……。そんなお母さんたちの力になりたかったんです」
産後ママ向けに行った事前アンケートでは、柴田さんの予想通り、人に迷惑をかけないよう気張るママたちの声が集まりました。子どもが泣くんじゃないか、立ち歩くんじゃないか、お腹が空いてぐずったらどうしよう、座席形式だと逃げられない……子ども向けコンサートに対する赤裸々な杞憂が浮き上がってきたといいます。
「だったら、すべての悩みを解決できる形にしよう!」と決まったコンサートは、これまでにない形となりました。座席はなく、フルフラットな空間にレジャーシートを敷いて鑑賞。演奏中は泣いても良し、移動してもよし、食べても良し。ユニークなテントスペースまで設けています。
本当の意味で「みんなで楽しめる」コンサートを
ピクニックコンサートのコンセプトは、ママ・パパ自身の自己肯定感を上げ、家族みんなで楽しめるコンサート。参加する親御さんたちにも心から楽しんでほしいという想いから、自由でストレスフリーな舞台づくりを目指しています。
参加者はレジャーシートを持参。まるで公園のお気に入りスポットでレジャーシートを広げるかのように、寝転がっても構いません。会場はフルフラットのため、車いすやベビーカー、身体が不自由な方も安心・安全です。子どもの空腹を満たすために、お菓子やジュースの持ち込みも可能。子どもたちが飽きたり、泣き出したりしたときのために、逃げ場として後方のキッズスペースも確保しています。
もうひとつの目玉に、『ジブンdeべんとう』という企画があります。これはルミエール府中内のカフェ『さくらガーデン』とのコラボ企画で、会場内に設置されたお弁当の具材を、参加者が各自でお弁当箱に詰めていくというもの。これも、ママさんが周囲を見回したときに、その内容に優劣を感じてほしくないという発想から生まれた企画でした。さらには、子どもたちが自ら具材を詰めることで、「できた!」という主体的な刺激を味わってもらう目的もあります。
柴田さんはこのコンサートで、参加者がお互いの事情を理解し、認め合うことをと願っています。「誰にも迷惑をかけないなんて無理なこと。だからこそ、皆がそれぞれに対して『いいよ、いいよ』とあったかく接してもらえれば」と語ります。
人同士の縁が紡ぐ成功への架け橋
当初は小規模開催しようとしていたピクニックコンサートは、柴田さんの予想を大きく超え、すでに230名を上回る動員を見込んでいます。柴田さんはもともとリトミックの同業者を集めたコミュニティを運営していたことから、今回のイベントを応援してくれる仲間も多かったそう。府中市内からの参加者はもちろん、遠方からの申し込みもそれなりにあったといいます。
ともにコンサートを創る仲間との出会いもまた、人との縁がもたらした成果といえるでしょう。かねてから親交のあったママ友が、実は元歌手であることがわかったり、通っていたボイストレーニング教室から紹介してもらったりと、さまざまな繋がりが企画を紡いでいます。「どうしてもやらなければならないことが多い中で、何をお願いしても快く受け入れてくれる仲間が多くいるのは、本当にありがたいですね」と、柴田さん。
苦戦したのは資金面の確保でした。小道具や衣装、テントの確保など、今回のイベントでかかるものはすべて自前。すべてを合わせると、個人で用意するには大きすぎる金額がかかります。無理して出そうとすれば持続性はなく、それでも子どもの参加費は無料にしたい……。悩む柴田さんが選んだのは、協賛募集とクラウドファンディングを行う道でした。
「メンバーの皆には、スポンサー企業様の対応や、協賛特典であるCMソングの作成など、あらゆる面で支えてもらっています。他にも『みんぷら』の同期やメンターの方々、リトミック講座をやらせてもらっているkotocafeの代表など、さまざまな方からの後押しがあったから今がある。感謝しています」と、柴田さんは嬉しそうに笑います。
すべての母親が自己を肯定できる未来へ
今後もピクニックコンサートは府中で継続的に開催していくという柴田さん。今後は地域の各種コミュニティや専門家とのコラボレーションを通じて、さまざまなスタイルを展開していく予定です。「目指すのは、ママたちとゲラゲラ笑って楽しめるような大宴会にすること。地域に根づくためにも、今後10年はやっていきたいですね」。ゆくゆくは幼稚園や高齢者施設への出張コンサートや、地元の小中学校の吹奏楽部や合唱団とのコラボレーションなど、柴田さんの夢は尽きません。
一方で、さらなる良い未来づくりに向けて、柴田さんは今回の経験で得たイベント開催ノウハウを、全国の同業者やリトミック講師に伝えていきたいといいます。初めての開催ながら、募集開始後わずか9分で200席以上が満席となったピクニックコンサート。その手法とバックボーンには、すでに多くの業界人から熱い注目が集まっているとのこと。
「いいモデルとして全国に広めれば、それだけより多くの人々の役に立つ。日本中のママたちの自己肯定感を上げて、これからも多くの笑顔と希望を届けていきたい」と語る柴田さん。その情熱は、地域社会を超えて広がる大きな可能性を秘めていると感じました。
子育てを頑張るママさん・パパさんへ
多くの親には、つい周囲の目を気にして、子どもの成長と冒険を全肯定できなくなる瞬間があります。そんな親の心配事に先回りするように構成されたピクニックコンサートは、ともすれば、今後の子ども向けコンサートのスタンダードにもなり得る存在です。
「ママ自身が楽しいと、子どもも自然と楽しくなる。そんな場所を創りたい」という柴田さん。彼女の存在は、今後の府中を大いに盛り上げ、ママたちの心の支えとなることでしょう。府中ピクニックコンサートが、地域と親子の絆を深める新しい文化となることを期待しています。